俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
 綾花は今でも毎朝茶箪笥の上にかざってある写真の前に水の入ったコップを置いて、話しかけている。
 それだけ彼女の中でおじい様の存在が大きいんだろう。

 古い日本家屋と書道教室を守り、ひとりでつつましく暮らす綾花を思う。

 人と言葉を交わすのは週数回の書道教室と個人レッスンのみ。
 近所の住人達との交流もあまりなく、あの広い家でひとりきり過ごす毎日。

 縁側で眠る野良猫に、必死に話しかけていた姿を思い出し、笑みと一緒に切なさもこみあげてくる。

 綾花はその生活になんの疑問も持たずに暮らしてきたんだろう。
 そしてこの先もずっと、続けて行こうとしている。
 穏やかで静かで、そして孤独な日々。
 まるでいばらの森に閉じ込められ、眠り続ける童話の中の王女みたいだ。

 けれどそんな生活が、さみしくないわけがない。

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