俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
同居のリミット


同居のリミット






 自室にひとり閉じこもり、黙々と墨を磨る。
 依頼されたロゴの作成のために、膨大な量の習作を重ねる。
 そのためには、墨をする作業だけで軽く一、二時間はかかる。

 電動の墨磨り機もあるけれど、私は自分の手でゆっくりと墨を磨るのが好きだ。

 しんと静まった和室に響くかすかな摩擦の音。
 ふわりと漂う墨の香り。
 次第に粘度を増し黒く染まっていく水。

 単純な作業を丁寧に繰り返していくうちに、心の高ぶりが落ち着き、呼吸が深くなる。
 集中力が高まり、余計なことが頭から抜け落ちる。

 書に向き合っているときだけは、貴士さんや姉のことを考えずにすんだ。
 私は現実から逃げるように、書に没頭していく。


「――綾花」

 名前を呼ばれ、はっとして顔を上げる。
 和室の入り口を振り返ると、険しい表情の貴士さんが立っていた。

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