俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
 その祖父を失う恐怖に体が震えた。

 祖父がこちらに視線を向け、か細い声で私になにか伝えようとする。

『なに? おじいちゃん』
『綾花……。あの家は全て、任せる……』

 しゃべるのすら苦しいのか、途中で言葉につまり乾いた咳をした。

 あの家というのは、祖父が住んでいた日本家屋だろう。
 私は祖父の言いたいことをくみ取り、力強くうなずく。

『わかった。大丈夫、あの家は私が守るから』

 泣きながら『約束する』と繰り返す私を見て、祖父は困ったように眉を下げる。
 手のかかる子供を見守るような表情だった。

 それが、祖父との最後の思い出になった。


 大学卒業後、父が代表を務める財団法人の仕事を手伝う予定だった私は両親を説得し、ひとり田舎に引っ越して祖父の家と書道教室を継いだ。

 それから早二年。
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