俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
「なに言ってるんですか」

 澄ました表情で彼に背を向け、こほんと咳ばらいをする。

「今日は、書道教室はないんだろ。どこかに出かけるなら、車を出そうか」
「ありがとうございます。でも、家でゆっくり書の練習をしようと思っているので大丈夫です」

 貴士さんの気遣いにお礼を言って断ると、彼は興味を持ったように身を乗り出す。

「書の練習?」
「はい」
「邪魔じゃなければ、その様子を見ていてもいいか?」

 ただ文字を書くところを見ていて楽しいのだろうか。
 私は不思議に思いながらうなずいた。

 自室に置いてある和机の前に正座して、まず墨を磨りはじめる。
 その様子を、貴士さんは少し離れたところからじっと見つめていた。

 気が散らないようにという配慮か、貴士さんは私の背後に座ってくれたのに、全身で彼の気配を感じ取ろうとしている自分がいる。

 おちつけ、おちつけ。いつもどおり、平常心で。
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