荒野を行くマーマン
全く楽しめなかったディナーから一夜明け、心のモヤモヤを必死に追い出しつつ準備を整え、いつもと同じ時間にアパートを出発した。
「おはようございます」
会社に到着し、エレベーターを待っていると、背後からそう挨拶される。
「あ、おはようございます」
慌てて振り向きつつ返答すると、そこにいたのは業務上数回関わった事のある、かろうじて顔と名前を把握している女性社員だった。
えっと、確か去年労務課に入った人で…。
そうそう。佐々木さんっていったっけ。
魚住君とは同期になる訳だな。
考えを巡らしている間にエレベーターが到着したので当然のごとく一緒に箱に乗り込む。
「庶務課の天童さんですよね?」
お互いが目指す階のボタンを押し、扉が閉まった所で、操作パネルの前に陣取る佐々木さんは斜め後方にいる私に視線を向けつつ問いかけて来た。
「あ、はいそうです」
「岩見さんの事はご存じですよね」
「え?えぇ…」
何故突然彼の名前を?と思いながらも頷いた。
「良く知ってますよ。同期の一人ですし…」
「それだけじゃないでしょ」
何故か突然厳しい口調になると、彼女は挑戦的な眼差しで私を見据えつつ続けた。
「私、岩見さんに告白したんです」
「へっ?」
「人事課とは同じフロアですし、年も一番近いから入社当初から色々お世話になってて。好きになるのにそんなに時間はかかりませんでした」
唐突な展開に間抜けな声を出してしまった私を置き去りにして、佐々木さんは早口で捲し立てる。