エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
おかしい。どうやら彼はこの結婚に乗り気のようだ。私への愛情なんてこれっぽっちもないだろうに。

なぜ? なぜなの? 普通、結婚といったら恋愛結婚じゃない? どうして愛のない結婚を受け入れられるの?

混乱しすぎて頭がオーバーヒートしそうだ。

そんな私を、彼は冷ややかな目で見下ろしている。

「……どうやらお前は、不満だったようだな」

イエスとも言えず、向き合ったまま沈黙する。

三月の、生温い風がふたりの間を吹き抜けていった。

彼は不愉快極まりないといった顔で腕を組む。

「……だったらどうして、その振り袖を着てきたんだ」

「え?」

突拍子もないことを尋ねられ、思わず自分の振り袖を見下ろした。

しっとりとした赤に壮麗なひまわりが咲き誇る振り袖。

ひまわりが好きな私のために母が探してきてくれたものだ。

浴衣にひまわりは多いが、振り袖には意外と少ないらしく、探すのに苦労したと母が言っていた。

「どうしてって……だって、正装って聞いたから……」

質問の意図がわからなくてもごもごしていると。彼は額に手を当てうなだれた。
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