エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「その話、詳しく聞きたい?」

え? と顔を上げると、彼は椅子から身を乗りだして、私を覗き込んでいた。

「気になるんだろう? どうして姉との婚約が破談になって、代わりに自分があてがわれたのか。俺としても、須皇先生が姉を捨てて選んだ女性がどんな人なのか気になってる」

興味深々といった目で睨み回されて、気分が悪くなる。

知りたいのは確かだ。けれど、知ったところでどうなるだろう。ふたりに対して後ろめたさを感じるだけのような気がする。

「……知らないほうがいいこともありますから」

平然を装って誘惑を跳ねのけると。

「本当に? そんなにもやもやした顔で気持ちよく結婚できるのかなー? 事実を知っていたほうが、むしろ安心できると思うけど」

鋭いところを突かれ、うっと口ごもる。もやもやしているのは確かだ。

透佳くんがどうして私を選んだのか、沢渡先生の話を聞けばわかるのだろうか。

「どうだろう、情報交換しないか? お互い知りたいことがあるだろう……と、ここはちょっとマズいけど」

そう提案したそばから看護師が背後を通りすぎる。

プライベートな話をするには、ここは人の耳がありすぎる。なにより、次の患者さんが外の長椅子で今か今かと待っている。
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