エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
「よくもまぁ優しくできたもんだな。自分の恋人を奪った女なのに。俺だったら悪口のひとつでも浴びせるだろうけど」

「え……?」

思ってもみないことを言われ、言葉を失う。

恋人を奪った女って、まさか私のこと? ということは……。

沢渡先生は、椅子ごと身体をこちらに向け、冷ややかに私を見下ろした。

「聞いてないの? うちの姉は、須皇先生と付き合っていたんだ。結婚の約束までしていたらしい。病院の関係者や周囲の人たちには、まだ隠していたらしいけれど。話を聞いていた俺や父は、そのまま結婚するんだとばかり思っていた」

わけがわからなくて、しばらく呆然としてしまった。

なんとか頭を整理しようと口を開き、掠れた声を絞り出す。

「……美沙さんと、婚約してたってことですか……?」

「結婚の口約束を婚約と言っていいなら、そうなるね」

頭の中で繰り返し咀嚼して、ああ、そうなんだ、とやっと意味を飲み込む。

透佳くんにだって、過去に付き合った女性のひとりやふたりは存在するだろう。そのうちのひとりが美沙さんだったんだ……。

何も不自然なことではないのに、動揺からか胸が痛む。

しかも、結婚の約束をするということは、お互いかなり真剣だったということ。

うつむき黙り込む私に、沢渡先生が嘲笑を浮かべる。
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