エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
けれど、母は至って現実的。

『何言ってるの。うちみたいな生産性のない会社に、ドドーンと融資してくれる人がいるわけないでしょう』

「もしかしたら、いるかもしれないじゃない」

『いたとしたら、十中八九詐欺よ。そんな怪しいお金受け取れないわ』

母は基本的にとぼけているが、お金に関することだけはシビア。これまで苦労してきたからだろう。

チャレンジしたがる父と、制止する母。

だからこそ、経営が破綻しかけたあの時も、ギリギリのところで倒産を免れ、踏ん張ることができたのだろう。

『それにね。お父さんは、今はもう、仕事で大成しようなんて思っちゃいないわ』

「……え?」

どういうことだろう。父の熱意は燃え尽きてしまったのだろうか?

しかし、母は楽しそうにクスクスと笑う。

『お父さんは気づいたのよ。お父さんと、お母さんと、彩葉の三人で、慎ましく生きていくだけで充分幸せだって』

「あ……」と小さく声を漏らす。

私の知る父は、いつだって毅然としていた。仕事だって、私との遊びだって、真剣そのものだった。

過去を悔やみくすぶるような人間ではない。

大切なものを守るという、違った目標を見つけたのかもしれない。
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