エリート外科医の滴る愛妻欲~旦那様は今夜も愛を注ぎたい~
どんなに私が恨みを抱えていても、記憶のない彼にとってはなかったも同然。それはそれでやるせなくて腹が立つ。

ずーんと落ち込んでいると。

突然彼の手が私の頭の上に乗っかって、髪をくしゅくしゅと撫で始めた。

一体何事かと目を丸くする。

「お前は、小さい頃から弟の立佳(りっか)のほうばかりに懐いていたからな。悔しくて、つい冷たく当たってしまったのかもしれない。悪かった」

初めて聞かされた意地悪の真相が、あまりにもあっけなくて唖然とする。

私が立佳くんと親しかったから……悔しくて?

ただの嫉妬だったってこと?

「そりゃあ、立佳くんのほうが、歳も近いですし」

彼より五歳年下で、私のひとつ上。現在、アメリカで医師免許を取得するべく医学研修を受けている立佳くん。

「でも、婚約者は俺だ。どんなにお前が立佳と親しくなろうと、渡さない」

急にムッとした顔で、私の手首を引っ張る。胸元に引き入れ、背中に手を回した。

……つまり、抱き寄せられた。優しく、丁寧に、包み込まれるようにハグされた。

トクン、トクンと、鼓動がひとつ刻まれるごとに大きくなっていって、彼の心音と重なる。

……どうしよう。ドキドキする。
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