みずあめびより
「・・・あ、生地捏ねなきゃ。私そろそろ叩きつけ作業に入ろう。」

衣緒は思い出したようにパン生地を手に取った。パン作りの本によると力がない人は生地を作業台に叩きつける作業を多くするとよいとのことだった。

「まずはお互いの親に挨拶行かなきゃな。」

鈴太郎もパン生地を手に取り作業を再開しながら言うと、隣で衣緒が体を固くし、不安げな表情になる。

「緊張するな・・・『お前みたいなしょぼい女、息子の嫁に出来ない』って反対されたらどうしよう。」

「またそういう発言する・・・大丈夫だって。ていうか俺の親をなんだと思ってんだよ。」

鈴太郎が苦笑しながら言うと、彼女はハッとした表情になった。

「・・・ごめん。あ、あの、挨拶行く時、二人で焼いたパン持って行かない?お互いの親の好みのパン作って。」

「いいかもな。我ながらいつも上手く出来てるし。」

「よし、じゃあ何作るか考えて本番に備えて練習だね。」

衣緒は意気込んだ様子で、パン生地を叩きつける手により力を込めた。

「親への挨拶終わったら、会社に報告とか、結婚式とか新婚旅行どうするかとか考えることたくさんあるな。」

「マリッジブルーになって喧嘩したりしちゃうのかな・・・?」

鈴太郎は一転して暗い表情になった衣緒の頬をむにっとつねった。

「!」

「ごめん。パン生地と間違えた。」

驚いた表情になる衣緒に鈴太郎は笑いながら言った。

「喧嘩したらまた仲直りすればいいだろ。ぶつかるの怖がってたら結婚なんて出来ないよ。そうやってぶつかっていくことで、表面のガタガタが丸くなって、より近づいていける、一つになっていけるんじゃないかって思う。」

「・・・そうだね。リンくんとなら出来ると思う。」

二人は微笑み合うとパン生地をまとめ、最後に生地の裏の真ん中をキュッと絞った。



───ついにこれを・・・着るのか・・・。

衣緒はお風呂上がりの洗面所で、準備していた露出度の高い衣服を見つめていた。
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