【女の事件】とし子の悲劇・4~遺恨の破砕波(おおつなみ)
第10話
8月4日の午前10時過ぎのことであった。

場所は、由比ヶ浜のアイツの家にて…

この時、かずひこが勤務している工場の社長さんが家にやって来て、アイツの父親に借金の保証人のお願いをした。

アイツの家にくる1時間ほど前のことであった。

従業員さんふたりの引き留めが失敗したので、大パニックを起こしていた。

従業員さんたちに『福利厚生の特典を使っていなかったので…』と言うて、社員旅行やプロ野球観戦などの社内行事をしますと伝えた。

従業員さんたちは『やったー』と喜んでいまたが、社長さんは行事を行うタイミングを逃したので、知らないうちに従業員さんたちの不満を高めてしまった。

従業員さんたちから『いつ頃社内旅行に行くのか?』とか『いつになったら手当てを出していただけるのか?』とか『いつになったら新しい仕事を与えてくれるのか?』の問い合わせに、社長さんは対処しきれなくなった。

社長さんは『待ってくれ…もうすぐメドが立つから。』とか『日取りがとれるように努力をするから待ってくれ…この通り…』と言うた後、どこかへ逃げて行く傾向が目立っていた。

社長さんのドラ息子が起こしたもめ事の示談金の支払いが完全に終わっていないことと工場を開業した折りに出資をして下さったみなさまに配当金をはらうことで手がいっぱいになっていたので、資金繰りが悪化した。

社長さんは、アイツの父親に借金の保証人のお願いをしたが、アイツの父親は保証人を引き受ける気力も体力もなかった。

「なあ、頼むよこの通りだ!!ワシの借金の保証人になってくれ…ワシを助けてくれ…従業員さんの引き留めに失敗した…従業員さんたちをひとりでも多く引き留めるためには、大金がいるのだよ…この通り…ワシを助けてくれ…親友が困っているのだよ…」
「あのな…今のワシはあんたを助ける余力はないのだよ…大金がいる大金がいる大金がいる…理由は従業員さんたちをひとりでも多く引き留めたいからと言うけど…本当に従業員さんたちのことを考えているのか!?」
「何だよ、ワシがいいかげんな人間に見えるのかよ…ワシは真剣になって従業員さんたちが気持ちよく働けるようにと思って…ワシは酒をやめた…パチンコもやめた…こと遊びごとについてはみーんながまんをしたのだぞ…お前はワシのつらいきもちが分からないのか!?」
「そうは言うけど、あんたは本当に従業員さんたちのことを真剣になって考えているのか!?」
「だから、ワシはのらりくらりしていない…信じてくれ…なあ…親友だろ…親友が困っているのだよ…」
「もうワシはあんたのセリフは聞きあきた…かずひこが専門学校に行くことが決まったとたんにオドレが泣きながらワシのところへ来て『セガレが起こしたもめ事を解決するための示談金が必要だ…』と言うたから、ワシはかずひこの入学金に取っておいたお金と家の貯金の一部をユウヅウしたのだぞ!!そのおカネは返せないと言うのか!?」
「返すよぉ…本当に返すよ…」
「それだったら、今すぐ耳をそろえて返せ!!」
「分かっているよ…だけど…」
「だけど何や!?用意できないのか!?」
「ワシを急かさないでくれ…すぐには用意できない理由があるのだよ…」
「どうしてだ!?」
「あの時…示談金に用意していた大金を持ち逃げされた…やくざに示談金を持ち逃げされた…」
「あんた!!あの時ワシがどんな思いでかずひこの専門学校の入学金などを流用したのか分からんのか!?ワシの気持ちをふみにじったから許さない!!なんでやくざに大金を渡した!?オドレはチンピラ以下の虫ケラだ!!帰れ!!」

社長さんは、アイツの父親から帰れと言われたので、トボトボと歩いて帰った。

この時、アイツの姉がトボトボと歩いている社長さんを家の前で見かけて、心配になった。

その時であった。

アイツの姉は、近所の奥さまに呼び止められた。

近所の奥さまは、家の洗濯物のことが気になるのでと言うてから、アイツの姉にこう言うた。

「かよこさん、ちょっといいかしら?」
「あら、奥さま…」
「ちょっと言いにくい話だけど…」
「あら、何のお話でございますか?」
「おたくの洗濯物のことで、気になることがあって、聞きたいけど…」
「うちの洗濯物のことで、不審な点があると言うのですか?」
「不審な点があるから言うているのよ…例のブラジャーはあんたの娘さんの物かしら…金具が大きく破損していたけど…」
「えっ?何のことでしょうか?うちの娘のブラジャーの金具が大きく破損をしていることをどなたから聞いたのかしら?」
「どなたからって、2軒となりのN山さんから聞いたけど…」
「N山さんの奥さまが、うちの娘のブラジャーの金具が大きく破損していたと言うたのですか?あのー…何かの聞き間違いではないでしょうか?」
「聞き間違いなんかじゃないわよ…何だったらN山さんの奥さまに聞いてみたら?」
「N山さんの奥さまがうちの娘のブラジャーの金具が大きく破損していたと言うたのですか?何をコンキョにそんなことを言うのですか?」
「アタシが言うたのじゃないからね…」
「そんなことよりも、N山さんの奥さまはどうしてうちの娘が使っているブラジャーだと断定したのかしら…」

アイツの姉は、ひと間隔を空けてからこう言うた。

「やだ思い出したわ…娘は、イライラしていただけよ…お見合いがうまく行かないから…つい…イライラしてして…よくある話です…今は大丈夫です…お見合いが成立したので…娘は毎日が楽しいと言うてます…大丈夫です…お分かりいただけましたか?では…アタシはこれで…」

アイツの姉がその場から立ち去ろうとしていた時、近所の奥さまは『ふーん…そうなのかしら…』とイヤミを込めて言うたので、アイツの姉は近所の奥さまにハンロンした。

「奥さま!!あなたは何が言いたいのかしら!?うちの娘のお見合いに文句があると言うのかしら!?」
「文句があるから言うているのよ!!あんたね、さよこさんにすすめたお見合い相手はよした方がいいわよ…」
「よした方がいいって…どうしてあなたは、うちの娘のお見合いに言いがかりをつけるのよ!?言っていいことと悪いことの区別をつけてください!!」

アイツの姉がますますヤッキになったので、奥さまは『うるさいわね!!アタシはあんたにチューコクしただけよ!!』と怒鳴り返したので、アイツの姉はこう言い返した。

「アタシにチューコクって何なのよ!!言いがかりをつけるのもたいがいにしてよ!!」
「たいがいにしてよはあんたの方よ!!アタシはさよこさんには言えないからあんたに言おうとしているのよ…チューコクしておくけど…あんたの娘のお見合い相手に、他に好きな女がいるのよ…」
「好きな女…」
「そうよ…しかも…あんたの娘のお見合い相手の好きな女は兄嫁さんよ!!N山さんの奥さまから聞いた話なのだけど、あんたの娘のお見合い相手が兄嫁さんと激しい声をあげて抱き合っていたところを見たと聞いたのよ…N山さんの奥さまがケータイの動画で撮影したみたいよ…それでも娘の結婚を強行させると言うのね!!」
「やめて下さい!!もうやめて下さい!!」

アイツの姉は、叫び声をあげたあと力がぬけてヘナヘナになった。

この時、さよこのお見合い相手が兄嫁さんにのぼせていると言うウワサが近所中に広まった。

いつ破砕波(おおきなつなみ)が押し寄せてきてもおかしくない状況下におちいった。

さよこは、それでもお見合い相手の男性と結婚がしたいので結婚の準備を進めていたが、新たな魔の手はすぐそこまで迫っていた。
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