近くて遠い私たちは。
 サクの若干の涙声が、母の死を現実に起きた事だと物語っていた。

 *

 何とか足に力を入れて立ち上がり、再度電話をくれたサクと病院のロビーで待ち合わせた。足元がふらつく私を心配して、サクが右手を引いてくれる。

 エレベーターに乗り、着いた場所は地下の霊安室だった。

 ドラマや映画でしか見た事の無い薄暗い一室に、母だと思われる人間が一人横たわっている。すぐそばに義父の姿もあった。
顔に掛けられた白い布を取るのが怖くて、現実を受け止めたくなくて、私は顔を背けた。

「美紅っ」

 サクが後ろから私の両肩に手を置き、見る事を促した。

「義母さんに、ちゃんと顔を見せてお別れを言ってやれ。義母さんが一番に会いたかったのはお前なんだ、俺や親父じゃない」

 ーーでも。間に合わなかった。

 私は既に泣き顔だった。

 五歳の頃、実父が亡くなった日の葬儀の記憶は朧げだが、身を切られるような喪失感だけは今でも身体が覚えている。

 私はおずおずと母らしきものに近付き、白い布を取った。

「……お、かぁ…さん……っ」

 綺麗に死化粧をした母の青白い顔を見て、私は膝から崩れ落ちた。
 目の前の母がもう生きていないのは明らかだった。

 ーーどうして?? なんでこんな事に……??

 ただただ現実を受け止め切れず、その場で泣き崩れるしかなかった。
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