Brillante amore! ~愛と涙のアオハルstory~
そして、いよいよ作戦を決行する時がやって来た。
朝7:30。
朝練の開始時刻。
やっぱり設楽先生は来ていない。
私は指揮台に登る。
「みなさんおはようございます。今日も基礎合奏から初めます。お願いします」
「「お願いします」」
チューニングをいつも通り終え、学年ごとにロングトーンをさせることにした。
「まず3年生。音圧が弱いです。音の密度が濃くない、とも言い換えられるかしら。低音は大変だと思いますが、どの楽器も太い息を楽器に送り込んでください。」
「「はい」」
「そして2年生。」
――作戦決行。
「大丈夫ですか?音が醜いですよ?」
みんな頭に?をつくっている。
「それぞれの音がぶつかり合っています。まるで喧嘩でもしているように。」
音楽室を支配している空気感が変わる。
攻めるぞ。
「そうですねぇ、これは恋愛絡みかしら?」
みんなが驚いて私を凝視する。
「人伝に聞きました。今喧嘩が起きていると。1週間ちょっと前ですか。」
結愛ちゃんも香織ちゃんも(やばい)という顔をしている。
「喧嘩が当人同士の争いだけだったら良かったのですがね。周りを巻き込んで、空気も音も悪い。最悪です。」
精一杯の憎しみを込めて告げる。
「原因も知っています。」
「え…」
どこからか聞こえた。
「それを踏まえ一つ。」
私は、大きく息を吸った。
「自分でアタックせず告白もせずいる男は興味無いです!同じ部活で状況が、という言い訳もなしです!何か言いたいんだったら私を越えるか惚れさせなさいっ!」
はぁ。
何人かの男子が俯く。
…こいつらか。
「僕からもいいですか。」
みんなは、最上段のトップ席にいる声の主――けいの方へ体を向ける。
「僕もその喧嘩について聞きました。
僕も早乙女さん…いえ、美玲と同じ考えです」
周りから「まさか…」という声が聞こえる。
けいは女子のことは全員名字+さん付けで呼んでいる。私のことを名前で呼んだという意味は。
「そして、僕と美玲の噂に着いて言っておきます」
けいは、私に目を向けるとにっこりと微笑んだ。
「僕と美玲はその噂通り、付き合っています。」
――なんか周りが騒がしい。
「それに、結構前から。
僕らの役職が役職なので、特定の人にしか話してませんでした。黙っててすみません」
「私からもすみません」
まぁ、謝る。
「――さっき彼女は『私を惚れさせなさい』と言いましたが、それは僕が許しません」
え、私一生懸命このセリフ考えていったんだけど。
「何故かって、美玲が惚れていいのは僕だけだから。でしょ、美玲?」
けいが勝ち誇った笑みで見つめてくる。
仕方ない、答えよう。
「そうね。逆も然りよ?」
営業スマイルでけいを見つめる。
「もちろん。――ですから、みなさんの下らない喧嘩は意味がありません。学指揮曰く音にも支障が出ているようですし、さっさと仲直りしてください。それから、僕らはカップルである前に金管セクションリーダーと学指揮であり、その仕事は言うまでもなくきちんとやるので、建設的でない悪口や陰口は辞めてください。」
口調こそ穏やかであるが、声がとても怖い。
けいの唯ならぬ空気を感じたみんなは、けいの言葉を聞いて前に戻る。
「私からもお願いします
これからやるべきことは沢山あるのに、全国という舞台があるのに、こんなくだらない事はやりたくありませんからね。
これからも頑張りましょう」
努めて明るい声でいうと、元気な返事が返ってきた。
「「はい!」」
この後の音はとても良くなり、結愛ちゃんと香織ちゃんも仲直りをしたという。
まぁ、作戦成功かな?