好きって言えたらいいのに

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「かさね、寝ぐせがついてる。結んであげるからこっちに頭向けて。」
「正太郎、ありがとー。」
 今朝はいつも以上にぼーっとして枕元の壁に貼ったポスターを眺めていたから、髪をなんとかする時間がなかったのだ。朝ごはんさえもぎりぎりだった。
 正太郎に髪を梳かしてもらうと心地よくて、思わず目を閉じそうになる。
 持つべきものは美容に特化した友人。
「かさね、正太郎ー。2人はもう簿記の宿題終わってんの?」
 目の前では、机に噛りつき、ワークブックをこなす夏葉が泣き出しそうな声になっている。
「それ結構、範囲広いから一日じゃ終わんないよ。もっと計画的にやんないと。」
 頭上の正太郎がため息をつきながら、夏葉に返答した。

 今朝はヘイちゃんに会うことができなかった。
 不規則な仕事だから、帰りが遅くてまだ寝ていたのかもしれない。
 ヘイちゃんは7年ほど前から『F-watch』というユニットを組んでいる。
 脱退や入れ替えなどで何度かメンバーの変更はあったものの、そのユニットは7年間なくなることなく活動を続けている。ヘイちゃんは、このユニットをずっと守っていきたいんだといつかの雑誌で語っていた。

 今のメンバーは4人。最年長のヘイちゃんをはじめとして、名女優の孫だという矢内君、一度芸能界を辞めて税理士をしていたという成瀬君、ダンスが得意で運動神経抜群な佐竹君。みんなもう成人している年齢である。
 私は直接彼らの舞台を観に行ったことはないのだけれど、彼らがすごくがんばっていることは、ヘイちゃんを見ていても、テレビや雑誌を見ていてもわかる気がした。なんとかCDデビューができたらいいなと思っていた。きっと、『F-watch』のファンはみんなそう考えていると思う。

 だから新しくCDデビューするユニットが決まったと聞いた時、心臓を掴まれたような気持ちになったんだ。 
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