好きって言えたらいいのに

2


 私の毎日は商店街と学校の中で回っている。
 たとえどちらかで何かが起きたとしても、もう一方の世界はいつもと同じように始まろうとする。だからしっかりと切り替えることが大事だと私は思っている。
 割り切って自分の感情に蓋をすること、それが自分や大事な人、そして両方の世界を守ることにつながると思うからだ。

 その気持ちは中学の頃、不用意な発言をしてしまったせいでヘイちゃんや商店街のみんなに迷惑をかけたあの日から変わらない。


「正太郎、ここの振りってこれで合ってる?」
「えー?こうじゃない?」
「いや、それなんか変じゃない?」
 体育の授業は創作ダンス。
 自分たちで数人のグループを作り、振りつけを考えて練習し、発表をするというもの。
 私たち3人組は不慣れなダンスに悪戦苦闘しながらここでも一緒に活動をしていた。
「ダメだ、全然わからん。やっぱりもう一回動画を見て、自分たちの動きを録画して確認したほうがいいって。」
 夏葉がお手上げと言わんばかりに両脚を投げ出し、空を仰いだ。
「なんとか今日中に目途はつけたいところだよね。」
 正太郎が体育着の裾で汗を拭い、ため息をつく。
 確かに…、このままでは発表までに完成しているビジョンがまったく持てない。
 不安である。不安しかない。

「よかったら、うちで練習する?うちマンションじゃないし、ある程度騒がしくしても大丈夫だと思うから。」
 私のそんな安直な提案に、夏葉と正太郎が目を輝かせて賛同してくれた。
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