医者の彼女
夕方、全日程が終わり片付けをする。

お医者さん達はこのままホテルで懇親会が
あるらしい。もちろん和弥さんも。

片付けを終えて、帰る準備をしていると
後ろから声をかけられる。

その瞬間、心臓が脈打ち、身体が硬直し、
ガタガタと震えだす。

聞き覚えのある、でも聞きたくない、
聞く事もないと思っていたその声。

見なくても、相手の顔が思い浮かぶ。

後ろを振り返ると、そこには間違いなく
私を捨てた父親がいた。

父「お前、まだ生きていたのか?」

すでに死んでいると思ったのか、
暗に死ねと言われているのか…。

父「なぜお前のような奴がこんなところにいるんだ?
ここは医者が集う場所で、お前のようなやつが
来る場所ではない。」

一気に思い出される昔の記憶。
今まですっかり忘れていた。

なぜ病院に行かなかったのか…
いや、行けなかったのか。


“お前は病院には行けない人間”

“勝手に医者に罹ろうなんて思うな”

“この先、医者と関わるようなマネはするな”

まだ子供だった私にこの人はそう言った。

当時は理解できなくて、病院に行かなければ
良いものだと思っていた。

でも…今の私は普通に病院に行き、
医者と付き合っている。

この人がするなと言っていたことを全てやっている。

和弥さんに出逢って、付き合う事になって、
浮かれていた。

言われていたことを忘れるほどに。
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