女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順
「あらあらまあまあ。いい声ねえ。中世的って思ったけれど、作業長とはまた違った魅力ね」
「作業長、というのは」
質問をすると、女性は遥を肘でつついて笑う。
「なあに。彼、遥ちゃんにずいぶんとご執心みたいね」
冷やかしの意味を理解したのか、遥は顔を真っ赤にして、俯いた。
女性は、手を大袈裟に振って言う。
「作業長は女の子みたいに可愛らしい見た目で、背も低いから。遥ちゃんみたいな子と並ぶと。って思っていたけど。やあねえ。いい人がいたのね」
女性の中で勝手に変換されていく、自分たちの関係。
けれど、敢えて指摘しない。
指摘しないために、かえって噂に尾ひれがついたって構わなかった。
「遥。帰りも迎えに来るから」
わざと甘ったるい声を出すと、遥は耳まで赤くして頷いた。
「朝からご馳走さま」
女性は楽しそうに言って、遥と連れ立ってビルの中に入って行った。
女の子みたいに、可愛らしい見た目。
その一言が気に食わなかった。
遥には、その方が恐怖心を抱かなくて済むかもしれないが。
自分の気持ちの在り方がわからずに、もやもやしたまま、事務所に向かった。