女嫌いと男性恐怖症:付き合いの手順

「アキ、少しだけ、手を」

 控えめに言われ、やっと遥を視界に収めた。
 差し出された手は、先程の男に触られていた手。

 男に触られても、過呼吸も出なければ、蕁麻疹も出ていない。

 男性恐怖症を抱え、生きづらかった遥にとって、喜ばしい変化だ。
 それなのに、胸の奥に黒い感情が渦を巻く。

「アキ?」

「ああ、悪い。手が、どうした」

「手が、どうしても、気持ち悪くて」

 今にも消えそうな声を聞き、衝動的に遥を抱き寄せた。

「あ、あの。アキ、手」

「ああ。悪い。手だな。どうしてほしい」

「アキに、触れてほしくて」

 抱きしめた腕を解き、差し出された方の手をそっと自分の両手で包み込んだ。
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