死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
怜央がドアを閉めたのを見計らって、俺は尋ねた。
「怜央、お母さんたちに俺が喧嘩したこと言ってないのか?」
怜央の両親は俺が学校を停学になったのなんて気にしてない様子だった。
怜央からその話を聞いたなら、俺に注意をしてもおかしくないのに。
「ああ。俺は警察に捕まってないから、言う必要ないかと思って。それにあづのこと言ったら、遊ぶの止められるかもしんないじゃん」
その言葉を聞いて、泣きそうになった。
怜央は親に秘密を作るくらい俺のことを想ってくれている。それなのに俺は母親が怖いからって、こいつに心配をかけないようにしようとしてるなんて、どんだけ馬鹿なんだ。
怜央の優しさに甘えたくなった。助けてって、叫んでしまいたくなった。でも……。俺を殴る母さんの姿が頭をよぎって、俺は声をあげることすら出来なかった。
「あづ、風呂は?」
怜央が俺を気遣って話題を変える。
「まだ入ってない」
「なら多分湯船まだあったかいから、ご飯の前に入れば? 案内する。服とタオルは俺の貸すから」
「うん、ありがとう」
怜央は自分の部屋からタオルと服を取ってきてから、俺を風呂場に案内した。
風呂から出ると、怜央が俺の怪我の手当てをしてくれることになった。ダイニングでやると怜央の親が傷を見てしまうことになるから、俺は怜央の部屋で手当てをしてもらうことにした。
「あづさあ、いいかげん、警察に相談すれば?」
俺の腕の血をタオルで拭き取りながら怜央は言う。
「しない」
「はー。このまんま耐え続けてたら、そのうちマジでお前のメンタルぶっ壊れるぞ」
「……壊れない。大丈夫だよ、まだ」
大嘘だった。
俺のメンタルは、とっくに壊れている。
「あのなあ、バレバレなんだよ。お前が身も心もぼろぼろなのは。どうせあいつらと喧嘩したのだってそのことが原因なんだろ?」
図星すぎて何も言えなくなる。
「お前が警察に通報しないって言うなら、俺が」
「やめて。しないで。お願いだから」
必死で首を振る。
「はー。なんでそんなに好きなんだよ」
「そんなのわからない」
顔を伏せて言う。
好きな理由なんて、親だからということくらいしか思いつかない。嫌いになれるものなら、嫌いになりたい。でも、多分無理だ。俺は優しい母親のことを覚えてしまっているから。母さんはいつか、虐待をしない優しい母さんに戻ってくれると信じているから。
「ごめん。そんな簡単に嫌いになんてなれないよな」
消え入りそうな声で頷く。
「ありがとう、怜央。あと、ごめん。怜央は俺のことを思って言ってくれてるのに」
「気にすんなよ。お前の心境が複雑なのはわかってるつもりだし」
「うん」
浮かない声で頷く。
俺は怜央の好意も、奈々の好意も蔑ろにしてしまっている。母さんを裏切ったら何をされるか分からないから。
俺は友達より母親が大事なんだろうか。そんな頭によぎった馬鹿げた想いを否定できない自分に、ただただ嫌気がさした。