死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
 
 屋上に行くと、伸びっぱなしにしてたせいで肘まで伸びた髪が、風で揺れた。
「痛っ!」
 頭痛に襲われる。俺はドアによっかかり、収まるのを待った。
「うっ」
 吐き気に襲われた俺は、慌てて屋上を出て、非常階段のそばにあったトイレに駆け込む。
 個室に入り、便器に吐瀉物をぶちまける。臭いが充満して、鼻につく。クソっ、嫌な気分だ。
「……ハッ。物思いにふける暇もねぇのかよ」
 自嘲気味に言う。
 本当に、クソみたいだな俺の人生。
「……確かに、一生このまま病院にいるのも、つまらないよな」
 吐瀉物を流した後、壁によっかかってひとりごちた。
 そうはいっても、俺の居場所なんてないし、ここにいるしかないんだけど。

〝待ってるから‼〟

 ふと、別れ際のあづの声が頭を過った。
 ……あづは今も俺を待っているのだろうか。
 たぶんあいつは、俺が本当に戻ったら、三年間連絡がなかったのも気にもしないで、笑って受け入れてくれるのだろう。そうやって、いともたやすく俺の居場所を作ってしまうんだ。その優しさと無神経さが、心底嫌になる。
「……俺だって、帰る資格があんなら今すぐ帰りたいよ」 
 事故かなんかに巻き込まれて、親戚が全員死ねばいいのに。そしたら、なにも気にしないで、笑ってあいつらと会えるのに。……そんなことを思うなんて罰当たりにもほどがあるが。

 流さないと決めたハズの涙が、あまりにあっさり流れた。

 フランスでやれる暇つぶしは何でもやった。
 図書室にあるフランス語や英語の本を辞書見ながら読んだり、同級生くらいの患者と話してみたりとか。本に関しては、図書室にあるのを大半は読んで、フランス語も単語の意味ならある程度わかるようになった。……話せるまでにはなってないけど。
 でも、そうやって目的を持って時間を過ごしても、楽しくなんかなかった。

 ……楽しかったのは、あいつらといた時だけだ。

 誰か俺に言ってくれ。ワガママで言う資格もないようなことを願っていいと。
 ……いや、誰かではない。親戚だ。親戚が、俺に謝りに来てくれたらいい。そしたら、何の後ろめたさも持たずに会えるのに。……ハッ、あほらし。そんなこと起きたら奇跡だな。一生起きねぇよそんなもん。
 体調がマシになった俺は、トイレを出て、屋上に戻った。
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