俺様社長は溺愛本能を隠さない
体を近づけてくる若林君に反発するように仰け反っていくと、ちょうどいいタイミングでオフィスの向こうから声が聞こえてきた。
「やっぱり桃木じゃダメだ。逆に煮詰まったぞ、どうしてくれる」
「そんなの私のせいじゃないですぅ。まさか戻って莉央さんに頼む気ですか? ダメですからね」
都筑さんと、桃木さんの声だ。オフィスに戻ってきたらしい。
さっき出て行ったばかりなのに、やたらと早い。海まで行かなかったのかな。
すると若林君はなぜか私の手をとって、戻ってきた二人を出迎える形で正面へと移動した。
「社長」
なんでわざわざ出ていくのよ若林君!
私、まだ泣き顔なんですけど!
「若林。……と、有村。二人で何してる」
私は隠れていたのに、若林君が肩を抱いて隣に引き寄せてきた。
都筑さんは私の泣き顔を見ると険しい表情に変わり、若林君を睨む。
「おい、若林。どういうつもりだ。有村に何をしたんだ」
都筑さんに手を引っ張られるが、若林君は肩を離さない。
まるで私の取り合いのようなことを始める都筑さんだが、その隣にはしっかりと“元カノ”の桃木さんがいるんだから。
今さらこんなことをされても、何を信じていいのか分からない。