俺様社長は溺愛本能を隠さない

「ほら、社長が強引すぎるんですよ。とにかく、有村さんはしばらく僕たちのサポートに専念してもらいますから。社長は桃木さんにでも面倒見てもらって下さい」

若林君が対角線の桃木さんを指差すと、彼女はにっこり笑って敬礼した。

「了解でぇす」

「待て。勝手に話を進めるな。有村。オフィスで話そう。俺は納得できない」

今は都筑さんと話したくない。
目の前で桃木さんを選ばれたときの嫌な気持ちがフラッシュバックしている。

傷つきたくなくて、私は相変わらず肩を抱いていてくれる若林君の方についた。
彼に寄り添ってもらって、オフィスの中へと先に戻る。
ずるいよね。でも色々と悲しくて耐えられないから。

後ろから「おい」と声をかけ続ける都筑さんには、今は応えられなかった。

──すると、この修羅場を遮るように、携帯音が鳴り響いた。

ピリリ、ピリリ、という目が覚める音は、若林君の腰のポケットから聞こえている。

私たち四人は一旦正気に戻り、動きを止めた。

「……出ろよ」

すぐにそう言ったのは都筑さんだった。
こんな修羅場でも、今は仕事中。
クライアントからの電話にはすぐに出なければならない。

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