宇佐美くんの口封じ
宇佐美君の声だけがクリアだ。
聞こえなかった振りなんかできないくらい、それは鮮明に私のもとに届く。
「…飽きたからせんぱい要らない」
「っ、うさ」
「もう終わり。…玲とよろしくやってればいーよ」
遠のいていく彼の後ろ姿を止めることはもうできない。
気づいた時には、もう遅い。
「…う、さみくん…っ」
ハサミがなくたっていまにもきれそうだった、私と彼との間にあった線。
それをたった今宇佐美くんが自分で上書きしてしまった。
ハサミでもなかなか切れないような、太くて、固くて、キツい線を。
私が、引かせてしまったのかもしれない。
「…いかないで…っ、」
私の声が宇佐美くんに届くことはなかった。