宇佐美くんの口封じ
◇
「ねぇ雅、」
「ん?」
「あんた、バンドの後輩くんと付き合ってるってマジ?」
「……は?」
翌日。
「おはよう」よりも先にリコにそう言われ、私は思わず顔を歪めてしまった。
「なんか噂になってるんだけど。“みんなの宇佐美くん”のお気に入りの先輩が青戸(あおと)くんと付き合ってるらしいって」
随分と長い接頭語がついているな、と思った。
青戸というのは玲の名字だ。“みんなの”とまではいかないけれど、綺麗な顔をしているので女子人気は確かに得ているはず。
厄介な噂をされてしまった気がしてならない。
“2学年の有名人をたぶらかしているクソ女”とでも言われているのだろうか。
…いや、私みたいな平凡女がたぶらかせるような2人ではないことは重々承知しているので、あくまで例えばの話だけど。
「付き合ってないよ…もちろん宇佐美くんともあれっきり何もない、」
「誰よ、あんな噂流した奴。見つけたらあたしがぼこぼこにしてやるわ」
「…ありがと、」