終わり良ければ全て良し、けど過程も大事
「結は声優さんが好きなんだ?右海さんが1番好きなの?」
さっきまでの饒舌は消え、だいぶ間を置いて「はい」とか細い声が聞こえた。
「そっか。ならその炊飯器も納得。正直その炊飯器食い気味で買った結にはビビったけど、それだけ好きならそりゃ欲しいね。頑張って米炊きな」
「はい…炊きます」
箱を抱きしめる結にクスッと笑う。
「何かおかしいですか?」
「え?いや…その炊飯器のおかげで少しは契約した意味が成せたかなって思って」
エンジンを切り、シートベルを外す。
「あのままボロアパートで暮らしてたらいくら結でもその炊飯器買わなかったでしょ?このマンションに引っ越して来たから心に余裕ができた証拠だよ」
常識的な値段ではないけど、少しは怯えながら過ごす日々を変えていければそれだけでいい。
「ほら、ついた。他の荷物は俺が運ぶから、その炊飯器だけ持っておいで」
一向に車から降りない結に一声かけて持てるだけの荷物を手に取る。
流石に量があるから一度では無理、できるだけ往復の回数を減らせるようにと荷物の調整をする俺の服を結が掴んだ。
「ん?」と顔だけ振り返る。
「…炊飯器、軽いので少しなら持てます」
そう言って、ビニール袋を炊飯器を持つ腕にいくつかかけていく。
「あと…」
真っ直ぐ俺の目を見つめる。
「買い物、付き添ってくれてありがとうございました」
ふわっと笑った結は背を向けてマンションの入り口へ向かう。
俺は、全身を雷で打たれたかのような衝撃で動けなかった。
「…ずるいなぁ」
うるさい心臓が口から飛び出るんじゃないかと口元に手をやる。
手を当てていなくてもなぜか耳から心臓の音が聞こえるほど結の笑顔の破壊力がすごかった。