終わり良ければ全て良し、けど過程も大事



持てるだけの荷物を持って部屋に向かう。

すっかりいつもの無表情に戻った結にも、さっきの笑った顔を想像して鼓動の速さが止まらない。


駐車場からエントランスに入り、オートロックのドアの暗証番号を打ち込んでいると、自動ドアが開き中から住人が出てきた。


手間が省けた、と会釈して中に入りかけた時。

「律兎?」


名前を呼ばれ振り返る。
見覚えのあるその人に顔をしかめた。

「げ」

「ちょっ…何よ、げって、失礼!」


頬を膨らませ俺の腕を叩く。


「え。もしかして、律兎ここに住んでんの?嘘ー!全然知らなかった!」


何も言ってないのに勝手に話を進める癖は変わってない。

「何階?遊びに行ってもいい?」

「いいわけない。というか、絵麗奈(エレナ)、このマンションに住んでるってことは、彼氏できたんだろ?誘ってくんなよ」

このマンションは俺と結の部屋と同じく全室2部屋で1セットだ。
用途は人それぞれとしても、この女の使い道なんてそれしか考えられない。


「別にいいじゃない。律兎がそんなこと気にするなんてどうしたの?1年会わないと成長したのね」


隣に結がいることに気づいてないのか荷物を持っていて身動きの取れない俺の体に擦り寄ってくる。


この女はモデル。
タレントや女優もやってるけど男好きで有名。
女に嫌われる女の典型的なタイプだ。

美人だけどこういう性格だから好きとかそういう感情は一切なかったけど、俺と関係を持った中で数少ない面倒じゃない女だった。
付き合いたいとか言ってこなかったし、絵麗奈も絵麗奈でSEXができればなんでもいいっていう考え。

正直楽だったから、何度も寝た。


「別に彼そういうの気にしないし、律兎がその気になってくれば私…誰この子?」

マジで視野が狭いのか、わざとなのか。
俺の横で炊飯器の箱と少しの荷物を抱えて黙り込んでる結を凝視する。


「だっさ、その眼鏡。何?律兎の彼女?趣味悪っ」

「絵麗奈」

「え?律兎、ずーっと彼女作んなかったのにどういう風の吹き回し?しかもこのマンションで同棲するほどなの?」

言いたい放題暴言を吐きながら俺と結を交互に見やる絵麗奈にイライラしてきたところで絵麗奈の顔つきが変わった。


結の顔をしばらく覗き込んでボソッと。

「え…めちゃくちゃ美少女…」


俺が結と初めて出会った時と同じ表情をしている。


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