桜の色は、藍色の花…
やっと、神社に着いた。
それは、良かったんだけど、たのすけの言う通り、すごい人で、めちゃくちゃ、並んでいた。
「(頑張って並ぼう!)」
池田は、帰って行く、他の見世の太夫の事を、こそっと教えてくれた。
「拝殿(はいでん)から、こちらに向かって来られる、薄紫の着物を着られてるのが、鈴乃屋の松江太夫です。」
松江は、二十五歳くらいで、つり目で、右目の下に泣きぼくろがあり、色白だった。
あたしは、松江に近付いた。
「鈴乃屋さんの松江太夫ですよね?
お初にお目にかかります。
近江屋の引っ込み禿を、させていただております、かがりと申します。
以後、お見知り置きを、お願い申し上げます。」
「近江屋ってぇことは、ゆきののとこか…。
流石、引っ込み禿なだけあるね。
挨拶が、完璧。」
「ありがとうございます。」
あたしは、深々と頭を下げた。
松江は、一人できておらず、新造を二人と、禿を四人連れていた。
そして、松江の後ろにいる、新造と、禿に向かって、言い放った。
「お前達も、このくらい、挨拶が、出てこそ、若い衆を連れて、一人で出れるってもんだ。
お前達も、頑張って、こうなりな!!!
じゃあ、かがり、またね。」
「はい。
お褒め頂き、ありがとうございます。」
あたしは、深々と、頭を下げて、見送った。
池田は、次に来た人のことを、教えてくれた。
「次に、薄緑色の着物を着て、こちらに向かって来られるのは、鈴乃屋さんとこの、松山太夫です。」
「分かったわ。」
松山は、二十二歳くらいに見え、たれ目の人だった。
あたしは、松江の時と、同じように、挨拶した。
松山も、松江と同じく、新造を二人と、禿を二人連れていた。
そして、松山は、松江と同じ事を、自分の新造と禿に達に言った。
あたしは、深々と頭を下げ、見送った。
「かがりさん。
紫の着物を着て、こちらに向かって来られるのが、菊乃屋さんの太夫、菊川太夫です。」
あたしは、菊川にも、同じ挨拶をした。
菊川は、二十五歳くらいで、たれ目で、口の左下にほくろがあった。
菊川は、松江達と同じように、褒めてくれた。
そして、自分の新造達と禿達に一喝。
その次に来たのは、山田屋の格子太夫の光川だった。
光川は、二十歳くらいで、一重のつり目だった。
あたしは、光川に、挨拶した。
光川も、自分の新造達と禿達に、一喝し、帰った。
次に、井川屋の太夫の春山と、格子太夫の春川に会った。
春山は、二十五歳くらいでたれ目で、春川は、二十歳くらいでくり目だった。
挨拶すると、春山も春川も、冷たい態度をとった。
次に、山田屋の太夫の千代川と格子太夫の伊藤に会った。
千代川は、二十五歳くらいで、一重のたれ目で、左目の下に、泣きぼくろがある人で、伊藤は、二十くらいで、一重の切れ長の目で、綺麗な顔立ちだった。
あたしは、千代川達に、挨拶した。
千代川達は、優しく微笑み、褒めてくれた。
更に、自分達の新造達と禿達にも、優しく言い聞かせた。
色んな見世の太夫と格子太夫ん、挨拶していたので、待ち時間も苦じゃなかった。
あたしは、見世の事と、みんあが風邪を引かないように祈った。
祈り終わると、あたしと池田は、見世に帰った。
帰って、ご飯を食べ終わると、楼主に呼ばれた。
あたしは、楼主のとこに行った。
「失礼します。
かがりです。」
「かがりか。
入れ。」
「はい。」
あたしは、部屋に入った。
そこには、あおはも居た。
あおはは、あたしを睨(にら)んだ。
「楼主、何のご用でしょうか?」
「かがり。
今日、池田と神社に行ったそうだな…。」
「はい。」
「その時、色んな見世の太夫と格子太夫に会ったそうだな?」
「はい…。
(悪いことしたのかな…?)
(でも、褒められたし…。)」
あおはは、こちらを見て、にやりと笑った。
楼主は、煙管の煙を吐いた。
「その時の「挨拶が、素晴らしかった。」と、太夫達が、楼主に話したそうだ。
それを聞いた、楼主達が、おめぇさんに興味持ってな、「明日の挨拶回りの先頭に、おめぇさんを…。」と…。」
その言葉に、あおはの顔が、引きつった。
「挨拶回り…、ですか…?」
「そうだ。
明日は、太夫達が、馴染みの茶屋に挨拶して回るんだ。
明日着る着物は、既に、用意してある。
いいな?」
「はい。」
「楼主!!
何で、怒らないんですか?!
他の見世の太夫達と、仲良くしてるんですよ?!!
失礼があるかも、しれないじゃないですか!!
もし、そんなことがあれば、見世の信用問題になるんですよ?!
怒るべきじゃないですか?!!」
「別に、かがりが、他の見世の太夫に怒られた訳じゃねぇだろ?
怒られたなら、怒るが、褒められたんだぞ?
何で、怒らねぇとなんねぇんだ?」
「こ…、これから、怒られたら…?
やっぱり、怒った方が、いいと思います。」
「怒るつもりはねぇよ。
かがり、これからも、ほかの見世の太夫達と仲良くな?」
「はい。」
「そんなの、許す訳ないでしょ?!
あんたのことだから、絶対、怒らせるに決まってる!!
他の見世の太夫と仲良くするな!!」
あおはは、あたしを睨んだ。
あたしは、何も言わなかった。
「かがりの挨拶は、わしが教えたんだ!!
わしの「教え方が、悪い。」とでも言うのか?「
「いえ…。
そう言う訳では…。」
あおはは、黙った。
「かがり、部屋にけぇれ!!」
「はい。」
「そ…、そんなぁ…!!」
あたしは、楼主の言う通り、部屋に戻った。
あおはは、あたしを睨んだままだった。
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