砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
小屋の近くに地面を耕した場所を見つけた。何かが植えられている。
小さな緑色の若葉を住民たちが手入れをしていた。
「怪我をしているのに、大丈夫なのか?」
アベルは重そうな水の入った桶を代わりに持ってやろうと手を差し伸べる。
ブリュオーの軍服を着たアベルが急に話しかけたので一瞬驚いた顔をした住人だったが、言葉がフォトキナ語だったことで安心し、ニコッと笑った。
「ありがとうございます、でも大丈夫。こんなのかすり傷。俺たちは負けない」
「これは何を植えたんだい?花か?」
「いや、先生が持ってきてくれた新しい作物で、荒れた土地でも育つらしいんだ。まだ畑のほうは物騒だからここで育ててる」
怪我をしても、土地や家を焼かれても、もう一度立ち上がろうとしている。そんな人々の強さが頼もしい。
「先生って、医師の?」
「あぁ。先生は何でも知ってる。すごい人だ」
「そんなすごい人なのか。名はなんという?」
「名前?知らないよ。みんな、先生って呼んでるから」
ーーもしかしたら、師レオポルトが来ているのかもしれない。
兄王に逆らう形になるかもしれないリスクを負ってでもここで医療行為ができる医師など、アベルの知る限り師レオポルト以外考えられない。
「その先生はどこにいる?」
アベルが訊ねると、住民たちは顔を見合わせて首をかしげた。
「小屋で診察してるんじゃないか?」
「さっき、ブリュオーの救護隊に後は任せるって言ってどっか行ったよ」
「薬草を摘みに行ったんだろ。
この森の奥の泉のほとりに薬草がたくさん生えているところがあるんだ。先生はよくそこで薬草を摘んでる」
ーー急ぐ必要はない。そのうち会えるだろう。
協力は惜しまないから、要望があれば言ってくれと住民に伝えると、アベルは再び森の奥へと足を進めた。