砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命


「そこのブリュオー兵!何をしている!?」

人の気配などなかったはずの空間に人の声がした。ブリュオー語だ。見回りをしていた兵士かもしれない。
涙で濡れ、怒りと悲しみで歪んだ顔を見られたくなくてアベルはとっさにその場にしゃがみこんで顔を伏せた。

人の気配がすぐそこにまで近づいてくる。

「手を怪我しているな?」

木の幹にいくつもの拳の形をした血の跡を見つけたのだろう。
すこし高い女性に近い声だ。まるでカインのような。
カインの事ばかり考えているから、今は何でも彼女に結びつく。

「問題ない。すぐに戻る」

ブリュオーの兵ならアベルだと気付いたに違いない。気まずさから、顔を伏せたままアベルは答えた。

「手を見せて。
何があったかは聞かないから、とりあえず止血しよう」

血の滲むアベルの拳に優しく触れた指先。驚いたことにその指先は毒々しい紫色をしていた。
アベルはびっくりして思わず顔を上げる。

その人物が頭からすっぽりと被ったローブは薄汚れている。男性なのか女性なのかもわからない。
ただフードの奥からこちらを見る瞳にハッと息を飲んだ。

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