砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
「カルヴィン・オルディンについて、わたくしが言えることはただ一つ。
彼はあまりに脆弱な、砂上の城、でした。
もはや、崩れた砂に埋もれ、彼は消えました。消えた人間は何も申しません」

[砂上の城、とはよく言ったものだ。女性の身でギリギリで生きていたんだろう]

ラインハルトはついいつもの癖でブリュオーの古語でつぶやいた。アベルはまたか、という顔をしている。

周囲が理解できないこの言語は、この場を一瞬ラインハルトだけの空間にして心を穏やかにしてくれる。
冷静な判断をするのに大切な『間』を与えてくれる、はずだった。

[あるがままに、自然の成り行きに任せるしかありませんでした]
「え?」

さすがのラインハルトも目を丸くした。
妹のジョセフィンが好きだった古語のフレーズがカレンの口から流れたことに驚きを隠せない。

[陛下はお気づきなのでしょう。私がカルヴィン・オルディンだと]

ラインハルトは信じられなかった。ワンフレーズだけでなくブリュオーの古語をまるで自国の言葉のように巧みに話すことのできる人間がいることに。

[知らないことを知ることが好きなのです。知識は裏切りませんから。
特に異国の言語を勉強することは得意です。ブリュオーの古語はまるで音楽のように心におだやかに響く音が好きです]
[そうなんだ。なんだか落ち着くよなぁ。驚いたが、会話できる相手に出会えてうれしいよ]

< 232 / 246 >

この作品をシェア

pagetop