砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

その日、オルディン家に何の先触れもなしにアベルがやってきた。


「なんだって?アベルが?」

モリセットが大慌てで執務中のカインにアベルの来訪を告げたとほぼ同時に、アベルが姿を見せた。

「よぉ、カイン。気晴らしに、付き合えよ、馬」

モリセットがカインに取り次ぐ時間も待てなかったのだろう。
突然に、三ヶ月ぶりのアベルの笑顔。
まるでそこにだけ太陽が照らしているかのような明るい笑顔があった。

さすがのカインも、手にペンを持ったまま驚きのあまりポカンとしてしまう。

「あ、カルヴィン様、インクが!」
「え、あ、あぁ、すまない」

ペン先に付けたインクがポタリと机に落ちてしまう。書類の上ではなかったのが幸いだ。

「へぇ、いつも沈着冷静なカインも、本当に驚くとそういう反応なのか。知らなかったよ」

珍しいカインのミスにアベルは口元をほころばせた。そんな笑みでさえカインの心を惑わす。
カインは落ち着こうと息を整えた。

「…急にどうなさったんですか?王太子になられたのですよ?きちんと礼儀を…」

「固いこと言うなよ。王太子とか公爵とか、めんどくさい肩書きなんか今は忘れろ。いい天気だからさ、久しぶりに羽伸ばそうぜ。
そんな遠出はしないから。いつもの古城に寄るくらいの、ほんのいっときさ。
急ぎの仕事はないだろ、モリセット?」
「ございません」

アベルの勢いに押されて、モリセットは思わずコクリと頷く。


「よし、決まり。そのままでいいから、行こうぜ、カイン」

強引ともいえるアベルの誘いだったが、悪い気はしない。久しぶりに会えた喜びも胸の奥で弾けて、カインは腕を引かれるままに、乗馬服に着替えもせずアベルと共に外へと出た。


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