砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命

その涙に気づきアベルは我に返る。

組み敷いている女の体がカインであることに改めて思い知る。

抱きしめれば折れてしまいそうなほど細く華奢な体。すべてを諦めたように虚ろな瞳。手のひらは力なく開いたままアベルに触れることもしない。

今までどんなに苦しんできたことだろう。
いつも胸の奥に秘密をかかえ、目立ってはいけない、何もするな、ただ生きていればいいのだと、押さえつけられて。この国で一番の知識も美しさも隠して、この手のひらは空っぽのまま何も掴むことは許されなかった。

怒りが急に愛おしさに変わった。
カインの肌に優しく触れ、痛みを堪えて涙を滲ませる瞳にそっと口づけをする。
カインの指を絡めるように手のひらを重ねた。カインの指は握り返してはくれない。それでもぎゅっと握った。


守ってやりたい。
全てのことから守ってやりたい。
俺にはカインが必要だから。

ずっと思っていた。カインが女だったら迷わず選ぶと。
俺が気づいていなかっただけで、神はその願いを叶えていたのだ。





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