砂上の城〜秘密を抱えた少年の数奇な運命
アベルが踊りだすと会場の空気が華やかになる。女性たちの視線は一斉にアベルへと注がれる。

ーーまずいな、主役の二人を食ってしまう。

カインの不安通り、ディアルドの表情が曇り始めていた。
しかたなくカインは音楽家たちにゆったりとした店舗の曲を演奏するように指示を出す。そして会場の明かりも減らし、ムードを変えた。

華やかに踊っていた人々が互いの体をピタっとつけしっとりと踊りだす。お互いしか見えない恋人たちの時間。サラとディアルドも周囲の目を気にせず体を寄せ合い、見つめ合いながら踊りだした。

「お疲れのところ、娘が申し訳ございません、オルディン公爵」

その時、不意に話しかけてきたのは、ブリュオー王国大使ロシェ公爵その人だ。

「あ、いえ。お声をかけていただいたのに、こちらこそ申し訳ございません」

そう言いつつ、ロシェ公爵はフロアで踊るミレットとアベルを見ていた。
その目は満足気に輝いている。

ーーなるほど。本命はアベルか。

おそらく、正妃の母国とはいえ外国の大使の娘に過ぎないミレットは、直接アベルにダンスを申し込めずにいたのだろう。カインをダシにしてまんまとアベルと踊れたようだ。

さすがは大使を務めるだけある。なかなか策士だ。

「オルディン公爵はご結婚の方は?」
「わたくしはアルベルト王子に仕えし者。あるじが身を固めるまでは」
「なるほど。わがブリュオーでは成人となれば大抵が結婚するもので…失礼いたしました」

そんな他愛もない会話をしていると音楽が終わった。
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