幸せにしたいのは君だけ
その後の仕事は散々だった。

必死で気を引き締めて業務に集中したけれど、ふとした瞬間に彼の表情や言葉が蘇り、ぼうっと考えてしまう。


こんな調子ではいけない。

覚えなければいけない仕事はたくさんある。

それでなくても一人前からは程遠い状態なのに。

さらに足を引っ張るような真似はできない。


何度も自分に言い聞かせるけれど、どうしても気になってしまう。

時計ばかりを眺めてしまう。

仕事が終わったら迎えに来ると言われた。

どんな話をするつもりなんだろう。


これまでに何度も、澪さんを迎えに来る圭太さんを見てきた。

あの時は圭太さんの姿に心を乱されたりはしなかった。

だって最初から諦めていた。


この人は絶対に私を好きにならないとわかっていたから。

私は彼の恋愛対象にはならない。

同じ舞台には上がれないって理解していたから。


それでも密かに目で追っていたから知っている。

圭太さんが澪さんを見つめる目は、いつも泣きたくなるくらいに優しい。

もしかしたら私は、その頃から恋をしていたのかもしれない。


圭太さんが恋人になる可能性はゼロだと、躊躇いもなく言い切る澪さんに、何度その話を口にしかけたかわからない。

私には圭太さんの本心はわからなかった。

でもその言葉にできない切なさはいつも胸に痛かった。


それなのに。

皮肉にも今度は、私を迎えに来るという。

比較しても仕方ないのに、昔のことばかり思い出してしまう。
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