幸せにしたいのは君だけ
五月の夜風はすでに初夏の気配を感じさせる。

冬の間、寒そうにしていた木々は鮮やかに芽吹いている。

季節の移り変わりを感じ、変わらずに圭太さんが隣にいてくれる幸せを噛みしめる。


「佳奈」


突然彼が店の近くの路地に入って、立ち止まる。

大きな通りから一本入ったその場所は住宅街になっていて、近くの家からは灯がもれていた。

まばらな人影が見える。

先ほどまでの喧騒がウソのように静けさが広がる。


「どうしたの? こっちになにか用事?」


普段はこの道を通らないのに……。


「佳奈、結婚しよう」


え……?


言われた言葉が一瞬理解できず、瞬きを繰り返す。


今、なんて?


「俺のお嫁さんになってくれませんか?」


ギュッと絡められた指に力が籠められる。

伝わってくる彼の熱がこれは現実だと私に告げる。


結婚……お嫁さん……?


言われた言葉をやっと頭が理解し始める。

ひゅっと息を呑む。

心臓が壊れそうなリズムを刻みだす。


「本当、に……?」

「もちろん」

「なんで、こんないきなり……」

「いきなりじゃない。付き合うようになってからずっと俺は思ってた。佳奈を一生独占したいんだ」


ふわりと口元を綻ばせる圭太さん。


「世界中の誰よりも、心から愛してる。佳奈がいてくれたら、俺はこれから先ずっと幸せだと自信を持って言えるよ」
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