幸せにしたいのは君だけ
「ごめん、人違いかもしれない。暗いし、一瞬しか見えなかったから」


申し訳なさそうに言う親友に、ぎこちなく首を横に振る。


「ううん、言い出したのは私だから。気にしないで。澪さんかも、と思っただけで、そもそもそれ自体が見間違いかもしれないから」

「そうね。だって佐久間さん、年明けにしか帰れないって言ってたんでしょ? 帰国しているのに、佳奈に連絡しないわけがないし」


努めて明るい口調で話してくれる親友に、口角を上げて返答する。


「うん。もうこの話はおしまい。せっかくの美味しい料理が冷めちゃうし。ほら、千埜も食べよう」

「よし、今日はとことん飲むわ」

「ええ? 介抱するのだけは勘弁してよ?」


アハハ、と声を上げながらも、先ほど目にした光景が頭から離れなかった。

胸騒ぎがする。

あの男性が圭太さんだとしたら……。


どうして澪さんといるの?

なんで帰国していると教えてくれないの?


理由なんて幾らでもあるし疑い出したらきりがない。

わかっているのに考えてしまう。


もしかしたら偶然会っただけ?

それともなにか緊急の用事? 

ただの見間違い?


気にしてはいけないし、ネガティブな思考に陥るべきじゃない。

もうひとりの私が、心の中で必死に忠告するのに、深く刺さって抜けない棘のようにその残像は私を苛んだ。
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