紡ぐべき糸

自分の思いを 言葉にして話すことで 聡は 気持ちの整理が できるような気がしていた。
 

「でも俺 本気で このままで良いって 思い始めて。たまに会う 夢の時間があれば。て言うか その時間を 日常にしたくないって 思い始めていたんだ。酷いよね。」

聡が 啓子を見ると 啓子は 静かに 首を振ってくれる。


「一年経った時 彼女 俺とは 結婚できないって言ってさ。俺が 今の関係に 満足していることに気付いて。俺を 自由にするために。結婚を申し込んだことで 俺が 責任を感じて 彼女に 縛られないように。」

啓子は 驚いて 手で口を塞ぐ。
 

「その後も 会ってくれるんだよ。俺が 会いに行けば。俺と一緒にいる時 彼女 すごく楽しそうで。彼女も 俺を待っているけど。でも 俺の自由を 奪わないために 結婚を 断ってくれたんだ。」

聡は 啓子の方を見て 寂しく微笑む。
 

「すごく強いですね その人。自分に負けたり 流されたり しないのかな。」

啓子はポツンと言う。
 

「そう。しなやかで 強いんだ。自分に強い分 他人に優しくてね。」

聡はフッと笑う。


だから 美咲といると 優しく包まれて 幸せを感じる。
 

「俺さ 弱いから。彼女と 別れるのが辛くて。でも もう 会ったらいけないと 思っているんだ。」
 

「辛くないですか。」

聡の言葉に 啓子は 驚いた声を出す。
 

「辛いよ。気が変になるくらい。でもさ 俺が彼女を 縛っていたら 彼女 前に進めないだろう。」

聡は 啓子の目を見て言う。
 

「やっぱり 横山さん 変わりました。そんな風に 彼女のこと 考えられるって。横山さんも すごく 強いと思います。」

啓子に言われて 聡はハッとする。


確かに 以前の聡なら そこまで 相手のことを 考えなかった。


でも それは 相手が美咲だから。




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