嘘つきは恋人のはじまり。


 特に言葉はなかった。だけど九条さんはずっと何かしらわたしに触れていた。頭を撫でたり、頬を撫でたり、キスをしたり。それそれはもう、どこのお姫様ですか、と言いたくなるぐらい大切に大切にされて。


だけどそれが嫌じゃなくて。気恥ずかしいけど動けないことを理由にしてただされるがままになっていた。


しばらくすると九条さんも気が済んだのか手が止まり、キスも止んだ。目を閉じてウトウトとしていたわたしはそのことに気づいて目を開ける。


「寝ていいから。俺も寝る」


わたしたちは(仮)だけど恋人。期間限定のお付き合い。だからこの結果はおかしくない、といえどやっぱり気持ちは落ち込んでゆく。


疲労感満載で頭が働かないのに、徐々に今に向き合ってしまえば罪悪感が募る。ほんの一週間前、ロバートと京都で楽しい時間を過ごしたばかり。彼を悲しませたくない、と、だから九条さんとは距離を取るつもりだったのに。


……最低だ


いくら絆されてももう少し警戒すべきだった。悪いのはわたしだ。「キスだけ」と言われて信じたわたしが悪い。


それなのに。


罪悪感を感じる一方、不思議と後悔はなかった。九条さんと身体を重ねたことを悔いる気持ちより、知れてよかったと思う気持ちが強い。


 この出来事はずっと胸に秘めておけばいい。


わたしは寝落ちする寸前までそんな悠長なことを考えていた。九条さんのことを知れてよかった、と。彼と交際する女性は幸せものだな、なんて呑気に思っていた。
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