つらい日々を支えてくれたのは課長でした【優秀作品】
 食事を終えて、部署に戻る途中、課長は言った。

「今日は、飲みに行くぞ」

「えっ?」

「だから、俺が仕事終わるまで、待ってろよ」

それって、一緒に帰ってくれるって言うこと?
大河に捕まらないように。

「はい」

私は、午後も仕事をがんばった。

大河が言った18時を過ぎ、19時になった。

「三沢、帰れるか?」

「はい!」

私たちは、2人でエレベーターに乗る。

 ロビーにつくと、簡単な打ち合わせ用に置かれたテーブルセットのひとつに座り、スマホを触る大河の姿が目に入った。

 一瞬で固まる私の背中を、課長がそっと押してくれる。

「気にする必要はない。行くぞ」

「はい」

私は、課長の背中に隠れるようにエレベーターを降りた。


「有紗!」

こちらに気付いた大河が、スマホを内ポケットにしまいながら小走りでやってくる。

「待ち伏せはストーカーなんじゃないのか」

課長の低い声が静まり返ったロビーに響く。

「これは、待ち合わせですよ。
 俺はちゃんとここで待ってるって言ったはず
 です」

「しかし、三沢は承諾してない。
 それは待ち合わせとは言わない。
 お前は、2年前、自分が何をしたのか、
 分かってるのか?
 三沢があれから、どんな思いで日々を
 過ごしてきたと思ってるんだ」

その瞬間、沈黙がロビーを支配する。 

しかし……

「これは、俺と有紗の問題です。
 真島課長は、控えていただけますか」

大河も引かない。

「残念ながら、三沢は俺の大切な女だから
 そういうわけにはいかない。
 言いたいことがあるなら、今ここで言えよ」

えっ?
今、さらっとなんかすごいことを言われたような……

私は、左斜め後ろから、肩越しに課長を見上げる。

課長は、いつもの落ち着いた表情で大河を見下ろしていた。

「有紗、俺、知らなかったんだよ。
 あの写真は、俺と有紗を別れさせるために
 うちの親が、それっぽく見える写真を
 興信所に頼んで撮らせたんだ。
 俺も騙されてたんだよ。
 だから、有紗」

大河が私に向かって手を伸ばす。けれど、課長が半歩左に動いたため、私はすっぽりと課長の背中に隠れてしまった。


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