つらい日々を支えてくれたのは課長でした【優秀作品】
再会
 私は課長と向かい合わせでランチを食べる。
すると、私が半分ほど食べ終えたところで、遠くに食べ終えたお盆を持って立ち上がる大河を見つけてしまった。

会いたくない。気付かないで。

私は、彼に気付かれないように、目を伏せて黙々と食事を続ける。

なのに……

「有紗、久しぶり」

何で声なんて掛けるのよ。
黙って無視して通り過ぎればいいじゃない。

私は、返事もしないで、そのまま無視して食事を続けた。

「話があるんだ。今日、何時に終わる?」

私は話なんてない。

私が無視を続けてると、課長が口を開いた。

「藤枝、三沢は話すことなんかないと思うぞ。
 諦めろ」

課長の声が低い。
もしかして、怒ってる?

「俺は、有紗と話してます。
 大変申し訳ありませんが、
 遠慮していただけますか?」

課長になんて言い草だろう。
失礼じゃない。

「残念ながら、そうはいかない。
 俺は三沢を守るって、約束したからな」

課長……

顔を伏せていても、目の端に大河の手が映る。指を小刻みに揺らしていて、イラついているのが見て取れる。

「じゃあ、18時、下のロビーで待ってるから」

それだけ言って立ち去ろうとする大河を課長は呼び止めた。

「待ち伏せはストーカーじゃなかったのか?
 もしロビーで待つなら、通報するぞ」

課長がそう言うと、大河は何も言わずに去っていった。

一度も顔を上げなかった私には、大河がどんな表情をしていたのかは、分からない。

でも、想像はつく。

きっと、課長に言い負かされて、悔しかったに違いない。



 私ひとりじゃ、あんな風に反論は出来なかった。

大河のせいで、私はあの日から、浮気女でストーカー女だってレッテルを貼られて生きてきた。

もう、恋はしない、仕事に生きるって決めて、噂話に耳を塞いで、同期とも距離をとって生きてきたんだ。

今さら、大河と話したいことなんて何もない。

そっとしておいて欲しいのに。
< 9 / 11 >

この作品をシェア

pagetop