契約結婚!一発逆転マニュアル♡
『ごめんなさいね、依舞稀。お父さんの患者さんが急変したの。緊急オペになるらしいわ。こんな大切な日に本当に申し訳ないんだけど、時間に間に合いそうにないのよ。一時間くらい遅れてしまいそうなんだけど……大丈夫かしら?』

心底申し訳なさそうにそんな電話がかかってきたのは、今まさに新幹線に乗ろうとしていた矢先の午前10時半のことだった。

聞くところによると、問題なければ通常4~5時間で終わるオペだそうだ。

しかし執刀医はオペが終わったからといって、はい、さようなら、といくわけではない。

術後もやらねばならないことがたくさんあるのだ。

逆算して考えても、確かに予約の午後七時には間に合わないだろう。

「気にしなくて大丈夫よ。患者さんのことを第一に考えてあげて?遅れても問題ないから」

レストランのシェフは、依舞稀達家族がゆっくりとした時間を過ごせるようにと、依舞稀達の後の予約は入れないと言ってくれていた。

確かに時間に遅れるのは申し訳ないけれど、理由を話して自分だけでも待たせてもらおう。

依舞稀はそう考えた。

『本当にごめんなさいね。終わったら急いで来るわ』

「謝らないで。本当に大丈夫だから。二人ともオペ頑張ってね」

依舞稀が明るい声でそう言うと、母親は少し安心したようだ。

『ありがとう依舞稀。会えるのを楽しみにしてる』

「私もよ」

『あとで会いましょう。愛してるわ』

「ありがとう。気を付けてね」

ストレートに愛情を表現する母親に対して、恥ずかしさが勝り、自分も愛してると言葉にする事ができなかった。

この時のことを依舞稀は大きく悔やむことになる……。
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