契約結婚！一発逆転マニュアル♡
予約時間10分前に店に着いた依舞稀は、コースの開始時刻を遅らせてもらえるようにシェフに頼んだ。

状況を理解してくれたシェフは、快く了承してくれた

六十代くらいであろうシェフの優しい笑顔に、依舞稀はホッと胸を撫で下ろした。

レストランの予約時間に遅れること30分。

依舞稀のスマホを鳴らしたのは、見たことのない番号だった。

「もしもし？」

応答するなり電話の主は、依舞稀に対して理解のできない事を説明し始めた。

「……あの……もう一度お願いできますか？……おっしゃってる意味がよく……」

『お気持ちお察しします。もう一度説明させていただきますね。実は……』


酷い耳鳴りが、相手の言葉をわざと聞こえなくしているかのような。

そんな感覚だった。

ただ一つだけ理解できたことは、一刻も早く相手の指定している場所に向かわなければならないということだけだった。

ノロノロと腰を上げ、おぼつかない足取りで個室を出ると、「すみません……帰ります……」と真っ青な顔色でシェフにそう伝えた。

特別なコース料理の下ごしらえも万全なのにもかかわらず、帰りますの一言だけなど冗談じゃない。

しかし依舞稀の顔色を伺えば、ただ事ではないと嫌でも感じ取れてしまう。

おせっかいとは思いながらも放ってはおけず、「なにかあったのかい？」と尋ねる。

すると血の気が引いて真っ青になっている依舞稀が、まるで能面のように張り付けた笑顔を見せた。

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