夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

そんなオレを前にして、ディアスに声を掛けられたアンナは「そうね」と短く答えると無防備に背を向けた。

……。
今なら、()れるのではないかーー?

その背中を見て、思わずそう思った。
度重なる予想外の出来事に直面し、究極の混乱状態に陥ったオレの思考はぶっ飛んで原点に戻り……。つまり、目の前に居るのは自分の母の仇だと感じてしまったのだ。

この女がいなければ、母は父と幸せになれた。
この女がいなければ、母は死ぬ事はなかった……っ。

上手く呼吸が出来なくて、酸欠状態の頭の中に浮かぶ母との記憶。感情の起伏が激しくて、発狂したり、泣いたりしている事が多かった。
でも、その中で時折見せてくれる優しい笑顔が、オレは大好きだった。
そんな母の敵を、排除してやりたかった。

この距離なら、外したりしないーー。

シャルマ様によって幼い頃から鍛え上げられた狙撃の腕。目の前の無防備な背中から心臓を撃ち抜く事など簡単な筈だった。

……けど。
何故だ?手が震えて、上手く狙いを定められない。

「!っ……アラン様!いけないっ……!」

オレの異変に気付いたディアスがバッとその場を飛び出して、拳銃を構えていた腕を掴まれる。
そして、それと同時にオレの瞳に映るのは、顔だけ振り返ったアンナの表情だった。

!!ッーー……兄、上(ヴァロン)……。

それにハッとした時には遅くて、オレの指は引金を引いてしまった。
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