夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

思い出せ。
何故、こんな状況になったーーー?

深夜、自宅の仕事部屋。
倒れ込みそうだった身体を床に両手を着き支えているオレの下で、頬を赤らめながら目を見開いて見つめる一人の使用人。
黒髪に黒い瞳の……。そうだ、コイツは確かスズカ。
人物が誰なのか認識したところで、オレは何故自分がこの女を押し倒しているような状況になったのかを思い返した。

……。

確か、取り引き先と会食を済ませてオレは一時間ほど前に帰宅した。
クタクタだったが、疲れ過ぎてこのままベッドに入っても眠れる気がしなくて……。そうだ、酒の力を借りて寝ようと仕事机に腰掛けてワインを飲んでいた。
そしたら、徐々に眠気が襲ってきて、フワフワする意識の中に……アカリ様が出て来た。
もう、諦めがついている筈だった。一ヶ月前に結婚式に出席して、兄上の隣で幸せそうに微笑む彼女を見て、心の底から良かったと思えたんだ。

なのに……。

夢の中ならば、少しくらいいいかーー?

オレは彼女の名前を呼ぶと、抱き寄せてその唇を奪った。

……
…………その直後。
グラッと倒れる感じがして、咄嗟に受け身を取ったら……この状況だ。
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