夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

自分の唇に僅かに感じた温もりと感触。
そしてこの状況に、驚き顔を赤らめている女。
この明らか過ぎる証拠に、オレは自分が犯した失態に気が付いた。

「っ……悪い、寝ぼけた」

状況を理解し、オレはすぐに身を起こし女から離れる。

やってしまったーー。

平然を装ってはいたが、内心はそんな気持ちでいっぱいで動揺していた。
そして兄上と、アカリ様に罪悪感や後ろめたい気持ちが広がる。

オレは……まだ、アカリ様の事を?
ーーいや、違う。
これは、最近遊んでいなかったから溜まっているだけだ。

未練がましい自分が嫌で、誤魔化そうとした。
祖父が亡くなって以来忙しくて、仕事ばかりで息抜きが出来なかったからだ、と自分に言い聞かせる。

それに、オレが想い続けたからと言って今更変わる事は何もない。
第一自分には、兄を裏切る事や傷付ける事など出来やしないのだから……。

祖父が亡くなった火災。
それに巻き込まれて病院に運ばれたオレが目を覚ますと、1番に飛び込んできたのは必死な表情でオレの名を呼ぶ兄上だった。目を覚さないオレに三日三晩付き添って、ずっと側に居てくれたらしい……。
全く、せっかく本当の家族の元に……。アカリ様の元に帰る事が出来たのに、オレなんかの側に居るなんて……本当に、大馬鹿な兄だ。
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