夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

「思い上がるなッ……!
お前なんぞがアカリ様(あの方)の代わりになるものかッ……!!」

夜中の静かな空間に響いた悲痛の声。
それは思わず口から飛び出した、本音。
言ってしまった直後にハッとして、オレは女から手を放すと「ははは……っ」と苦笑いしながら後退りした。

嫌気がさす。
綺麗事を並べていただけで、やはりオレの中にあったのは未練がましい汚い感情。
祝福するフリをして、良い奴になったフリをして……。そう、所詮は全てフリ。
オレは何一つ変わってなんかいない。
羨んで、妬んで、きっとまた……誰かを傷付けていくんだ。

兄上の母親、アンナとの束の間の時間で自分はもう昔の自分ではないのだ、と思う事が出来た。
けれど、やはりそれは思い込み。汚れたオレが真っさらに綺麗になる事なんて、出来ないのだ。


自分に絶望して、後退りした先の壁にもたれ掛かりながら俯く。隠そうとしていた、閉じ込めていた感情を暴かれてオレの心はボロボロだった。
こんな自分知りたくなかったのに、と思うオレが怒りの矛先を向けたのは…………。

全ては、この女のせいだ。
そもそもこの女が、いなければーー。

さらけ出せないのは、自分の弱さ。
アカリ様への想いから抜け出せていないのは、全て自分の弱さなのに、オレは側に居る女に全てを押し付けようとした。
……でも、…………。
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