諦めて結婚いたしましょう~一途な御曹司の抑えられない独占欲~
「どっちだろうな。わかったか?」

 肩で息をする私に、理人さんはいたずらにささやいた。

 ……わかるわけない。

 私が口をへの字に曲げると、彼はふっと小さな笑みをこぼした。

「帰りはタクシーだな」

 理人さんのその言葉通り、帰りは大通りでタクシーを拾って一緒に帰った。

 気恥ずかしくて窓の外に見入っているフリをしていた私は、気づかれぬように隣に座る理人さんを横目に見る。

 理人さんも、頬杖をついて流れる景色を眺めていた。ときどき街頭に照らされて覗くその真剣な顔は、どこか思案しているようにも感じられた。

 私はさきほどの出来事を思い返し、頬がみるみる紅潮していくのがわかった。

 理人さんにとって、私が少しは特別だって自惚れていいのだろうか。こんなことを聞けば、また『馬鹿』と怒られそうだけれど、まったく嫌いな相手に二回もキスなんてしないよね。

 私はそっと唇に触れる。

 あの感触を思い出せば、いつものように気軽に理人さんに話しかけられなかった。
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