嘘恋のち真実愛
ちゃんと彼女役を演じられる自信がないから、頼りにされても困る。

穏やかに微笑む部長から目を離して、パソコンをシャットダウンさせようとマウスに手を置いた。


「えっ……」


その時、マウスを持つ手に部長のあたたかい手が重なった。重なる手をじっと見る。

男性に手を握られたのは、何年ぶりだろうか。握るのにはどんな意味を持つのだっけ?

久しぶりすぎて、思考が追い付かない。


「練習しようか?」

「練習……ですか?」


握るの手には練習の意味があるらしいが、なんの練習かと部長を見た。彼は、握っていない方の手で頬杖をついて、真剣な眼差しで私を見ている。


「そう、例の役の練習。最後に手を繋ぐとあったでしょ?」

「あー、そういう練習ですか?」

「うん、感触を覚えておいて」

「感触?」


首を傾げる私の手を握るだけでなく、優しく撫でる。なんだかゾクゾしてきた。嫌悪感のゾクゾクではなく……なんだろう、この感覚は……。

長らく忘れていた感覚が思い起こされそうになるが、部長の声でストップする。


「手を繋いで、帰ろうか?」
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