嘘恋のち真実愛
「いや、本当に迷惑だなんて思ってないから、気にしないで。このあと下のショップを適当に見てから、どこかで夕食をと考えていたけど、今日はもう帰ろうか?」

「えっ!」

「ん?」

「私に呆れました?」


部長は「は?」と眉根を寄せた。まともにデートが出来ない女に呆れて、帰ろうと言ったのだろう……。

部長がまだ持っていた緑茶を奪って、勢いよく飲む。帰ると言われて、なぜか体の調子が戻ってきた。

今日のデートは、もうおしまい。時間は短かったけど、いろいろ考えることができたかも。帰りも私のマンションまで送ってくれた。

恋人同士の別れのように、私たちは向き合って両手を握り合う。親密に見せるためのデートは、別れるまで続く。


「送っていただき、ありがとうございます」

「うん、ゆっくり休んで。今度仕事帰りに食事をしよう」

「食事ですか?」

「うん、今日のリベンジとまだ足りない親密さを得るためにね。あ、そうだ」


また良からぬことを思いついたらしい……。部長は楽しそうな顔をしているけど、私はしかめっ面。
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